1.金原農園(大崎上島町)の体験授業概要
大崎上島町は、瀬戸内海に浮かぶ芸予諸島にあり、切り立った斜面が多く柑橘類の栽培に適した地域で、養殖漁業も盛んに行われています。
柑橘栽培は、大崎上島町の基幹産業ですが、高齢化や後継者不足により産業としての衰退が著しくなっているといいます。このため、島内の農業関係者が集まり、農業で生計を立てられるだけの安定した所得を得るため、高付加価値化した果実の生産・販売が必要との結論になり、若就農の受け皿として柑橘のハウス栽培を中心とした農事組合法人シトラスかみじまを設立したそうです。
金原農園の金原邦也さんは、シトラスかみじまの組合長であり、高級かんきつ「せとか」をこの法人が持つハウスで栽培されています。シトラスかみじまは、大崎上島町の柑橘生産の中核拠点であり、ハウス面積が1.49ヘクタール、ハウス周辺には2.37ヘクタールの露地栽培(主幹形栽培のいしじ温州・デコポン)が行われています。 このハウスの中では、約98アールの「せとか」、39アールの「レモン」、12アールの「なつみ」が栽培されています。
金原農園では、シトラスかみじまで生産されている「ハウスせとか」の摘果作業をさせていただくとともに、広島果実農業協同組合連合会の専門営農指導員として長年、柑橘栽培の指導と実践を行われてきた金原さんの貴重な講義を受けました。
2.ハウスせとかの摘果
まず、金原さんからせとかの摘果方法の説明と実際の手ほどきが行われました。金原さんの奥様や役員さんお二人にも来ていただいており、ハウスでは4人の方々に指導していただきながら、せとかの摘果を行いました。 せとかは、アンコール・清美という品種とマーコットという品種の交配から生まれた、果汁、甘さ、たべやすさを備えた高級かんきつで、1個何百円もする果実です。 この6月の摘果作業が翌年2月に販売されるせとかの品質を大きく左右するという緊張感もあり、参加者全員が真剣に摘果に取り組みました。金原さんをはじめ講師として来て下さった4人の皆さん全員に対して、遠慮なく質問して指導を仰いでいた学生の姿が印象的でした。 一生懸命皆で協力して摘果したことで、金原さんが予定していた面積を超えて作業ができたようです。少しは、金原さんに貢献できたと満足感と達成感を感じて、午前中の体験学習を終了することができました。
3.金原さんの多彩な講義(大崎上島町の歴史からかんきつの栽培・流通まで)
昼食は、前田ゼミと合流し、大串海岸で頂きました。お弁当と一緒に、塾長の道林清隆さんをはじめ、大崎上島町食文化海藻塾の皆さんが準備して下さった試作品の海藻料理をたくさん頂きました。 昼食後に、その場で金原さんから大崎上島町柑橘類の歴史や生産・流通に関する講義を頂きました。 講義は、大崎上島町の課題・歴史、かんきつ栽培の現状や新技術への取り組み、流通の実態や直売の対応など、多岐にわたるものでした。
特に、大崎上島町の柑橘振興に率先して取り組まれている姿が、言葉の中からも窺えるものでした。また、かつてJA広果連で柑橘栽培の指導者として活躍しておられ、特筆される成果を上げられましたが、台風等幾多の試練を率先して克服し、大長を含む島のかんきつ産地の形成・発展に尽力されたことが伝わってくるものでした。 また、栽培技術についても、もちろん豊富な知識をお持ちであり、これをわかりやすく学生に説明していただきました。上野ゼミの学生は、大崎上島の柑橘栽培などについて事前に学習しており、一人ひとつ質問を準備していました。これらの質問にも、金原さんは詳しく答えて下さいました。
3.大崎上島の急傾斜地での柑橘栽培について講義
大串海岸での講義ののち、シトラスかみじまから車で2,3分のところにある金原さん所有の傾斜地露地みかん園へ移動し。現地で講義を受けました。まずは農園の入口にある井戸の説明を受け、急傾斜地で水を確保することの難しさを実感しました。この園地は、急傾斜地で、水はけがよく日照もよいが、作業の体への負担が大きく、園内にとりわけ収穫作業が大変で、そのためにモノレールを敷いて原動機付きモノラックを利用しているといいます。ジャンケンに勝った学生がモノラックに乗せてもらいました。。とても楽しそうでした。
金原さんのお話だと、最近、いのししの獣害がひどいといいます。園地の周りに防獣柵を張りめぐらしていますが、少しでも隙間があると侵入してくるそうで、対策に大きな労力を取られているようです。この園地では、露地のせとか、いしじ温州など、試験用も含め、柑橘類のいくつかの品種を栽培しているそうです。
4.シトラスかみじまの主幹形栽培について講義
最後に、再度シトラスかみじまに移動し、いしじ温州の主観形栽培について、金原さんの説明・講義をうけました。広島県は、果実の品質向上や栽培管理、収穫作業の負担軽減を目的として、主幹形栽培を推進しています。この栽培方法は、広島県が開発したもので、主幹と呼ばれる太い枝をそのまま園地に植栽して栽培する方法です。園地にはマルチシートを敷いてシートの下に定置配管を行って(マルドリ方式)、雨水の土壌浸透を防ぎ灌水および液肥施肥を人工的に行うことで、樹木の水分吸収を管理し、高糖度で適度な酸を持つ果実の生産をめざしています。この方法は全国的に注目されており、多くの農業関係者がシトラスかみじまに視察に来るそうで、金原さんがその講師となってこの技術を詳しく説明しているそうです。
4.お礼のあいさつと記念写真
最後は、金原さんと榎屋さんにお礼を言って、シトラスかみじまのハウス団地を一望できる場所で、記念写真を撮影しました。 せとかの収穫のお手伝いに来ることなどを話し合いながら、体験授業を終了しました。
美しい大崎上島への関心が高まり、その課題に対して主体的に取り組んでくれる学生が育って金原さんやお世話になった役場に恩返しができることを期待しています。