広島大学 地(知)の拠点 フォーラム
中山間地域・島しょ部と広島大学
―広島県の農水産業の将来を見据えた交流と連携―
開催日時:2014年12月11日(木) 12:50―16:30
開催場所:広島大学 学士会館レセプション・ホール
第2部:円卓フォーラム (14:35~16:25)
受入地域・自治体・大学による交流と連携の成果
第2部は、「広島県の地(知)の拠点 円卓フォーラム」とし、受入地域・自治体・大学による交流と連携の成果をより深く討論し、地の拠点に基づく教育の進め方、協同で取り組むべき地域農林水産業の課題、大学を媒介にした地域間連携と交流のシステムづくり、などを話しあうのを目的とした。
円卓フォーラムの趣旨とテーマ
円卓フォーラムを開催するにあたり、中山間地域・島しょ部領域対策の責任者の山尾政博教授が趣旨を説明した。第1部での活動紹介、受入地域からの意見・提案を踏まえて、今後の広島大学の地域志向型教育のあり方、地域が抱える課題に大学がどのように向き合うか、大学・地域・自治体の3者が組織的に連携していくためのシステム作りをどうすればよいかについて、意見と提言をいただきたいと述べた。
円卓フォーラムの司会である細野賢治准教授は、議論の柱として3つのテーマを提示した。第1は、受入地域及び自治体関係者が、今回の地(知)の拠点整備事業にどう感じられたのか、第2に、地(知)の拠点活動が行おうとしている地域志向型教育についての評価、第3に、中山間地域・島しょ部の活性化に向けて広島大学にどのようなことを期待しているのか、具体的な教育テーマおよび課題を提案する、以上である。
体験学習についての学生アンケート調査結果の紹介
矢野泉准教授より、体験学習に参加した1年生に対するアンケート調査結果について報告があった。生物生産学部の学生は、他学部の学生よりも農業とのかかわりが深く、小中高で食農教育を受けた経験がある世代である。体験については、ほぼすべての学生がよかったと回答しており、たいへん好評であった。理由の一つに、“地域の人の話がきけた”ことをあげた学生が多く、教員としては非常に喜ばしいと感じている。今後の交流活動の改善点として、移動時間を含む交流時間、体験活動が休日に実施されたことへの不満があった。
体験学習に参加して「農漁業への印象は変わったか」という質問に対し、元々興味関心が高い学生が集まっていることから、変わらずよいという回答が半数を占めた。学生が最もしてみたいと思う活動は宿泊体験であった。今後の農漁村との関わり方については、遊びに行くという回答が最も多かった。アンケート結果を踏まえて、地域の行事に継続して参加するという第二のステップへ、また定住・仕事選びという第三のステップへ進めるように活動を発展させることを検討する必要性があると、矢野准教授は指摘した。
受入地域の声紹介
大泉賢吾コーディネーター(教育研究推進員)が、受入地域と市町(行政)に対するアンケート調査結果について報告した。体験学習の計画作り、実施状況に関する評価が紹介され、全体的評価については概ね良いとの回答であった。体験学習における地域・市町・大学等の連携について、市町側は良いという回答が多くみられたが、地域からは市町ほどの評価を得ていないので、今後は地域との関係を強化しなければならない。参加学生の地域への理解や関心が高まったかという問いには、概ね高まったという回答を得たが、“やや”との答えも多かった。
体験学習の実施時期について、作業内容との兼ね合いがあり、検討する必要があることが指摘された。受入地域、市町がこの体験学習の受入に伴い負担することになった業務量については、概ね許容範囲であったとの回答を得た。ただ、体験学習の回数については、「増やしてよい」と「ちょうど良い」という意見が分かれ、参加学生数については10名程度が適切とのことであった。さまざまな体験を学生にしてもらいたいとの意見が強かった。一回の体験授業時間は、「長くしたい」と「現状でよい」とが半々であった。受入地域、市町とも本年度とほぼ同じ地域で受入を行いたいとの意見であった。体験授業の実施を通じた大学との連携については強くなったと肯定的にみる地域が多かった。
地域の学生受入に対する意見
以上を踏まえて、呉市豊町大亀孝司氏は、同地域で取り組んできた大学生との協同活動の成果を紹介し、今回の参加学生のアンケート結果に対する意見を述べた。遊びに行きたいという意見が多く見られたが、年間を通じた体験学習を希望したい。ミカンの花が咲くころから数回の農作業を経て、収穫に至るまでを経験してほしい。こうした体験を通して最終的に担い手ができればよい。
呉市豊町末岡和之氏からは、参加学生のアンケートの中で将来移住してもよいと考えている学生が数名いたことは非常に喜ばしく、今後も活動を継続して移住を考える学生の数を増やして欲しいとの表明があった。
世羅幸水農園組合長理事祢冝谷全氏は、今回の体験学習は時間が短すぎ、1~2日かけて一つのことをじっくりと教え、“しんどい”という思いをして農業への理解を求めるべきだとの意見を述べた。また、活動参加に消極的な学生もいた。同地で行われているさまざまな活動に積極的に関わる広島大学生もおり、今後に期待したいとのことであった。
三次市大前農園大前憲三氏は、農業大学校生の住込み実習の受入、小学生に年間を通じたアスパラガス栽培を教え、新人の農業普及員の研修を受入れている。これらと比較すると、今回の広島大学生の体験学習の仕方はやや物足りない。今後は、アスパラガスの6次産業化、販売流通等にも力を貸して欲しいとの意見が出された。
広島市大田川漁業協同組合理事一月高志氏・苗代彰氏(いいね太田川隊)は、ヨシ刈り作業に参加した学生の様子を報告した。学生は刈り取られたヨシを運搬し、終了後には漁協の組合員の指導のもと川に入り生き物観察を行った。学生が活き活きと観察する姿が印象的だったとのことである。
呉市豊町市民センター前田義信氏は、学生には条件不利地域とは何かをもう一度考えて欲しいという。島しょ部の急傾斜では高品質のみかんを作るのに適している場合がある。百貨店等ではこうしたみかんが高価格で販売される。夢のある発信をしていけるかどうかが、条件不利地域の今後を考える際のカギであるとの意見であった。
細野准教授は、まとめのなかで、体験学習には遊びの要素があるのではないかという厳しいご意見をいただいた一方で、将来移住してもよいという学生がいたことは評価できるのではないかと述べた。また、学生が体験学習をしっかりと行い、受入地域の人たちがやる気が出るようにしてほしいという要望があった。継続的に体験学習をしてほしいという意見と、学生が入ったことで活性化にもつながっているという意見も、今後の活動の指針になると述べた。
中山間地域・島しょ部領域対策の活動に対する評価
安芸太田町地域づくり課長尾航治氏は、さまざまな大学との連携を行っているが、単なる体験交流を求めているわけでなく、今後につながる活動を求めていることを強調した。今回の体験学習は1年生であり、これまで交流会等に参加した学生に比べて、専門的知識に乏しかった。地(知)の拠点の活動を入り口として、長い目で地域とかかわっていって欲しいと考えていると述べた。
安芸太田町いにぴちゅ会会長河野司氏は、体験学習に参加した学生が何年か後に「井仁ってよかったなぁ、こんど友達といってみようかな」と考えて来てくれるだけでも、地域にとっては成功ではないか。少し長いスパンで考えて、連携活動を作り上げていきたいと表明した。
大崎上島町産業観光課課長森下隆典氏からは、広島大学が地(知)の拠点整備事業で求めている目標値がどのようなものなのかという質問があった。地域はそれぞれ課題を抱えており、それを解決するための努力をしている。大学が地(知)の拠点整備事業の活動を開始するなかで、地域の側にも期待がある。しかし、大学側としても限界があると思われるので、予めその限界がどこまでかわかっていると地域も市町も対応しやすい。地域を対象に卒論研究する学生が増えて欲しいとの意見が出された。
山尾教授は、森下隆典氏の質問に答えて、本年度の活動を踏まえて何を目標値にしていくのかを検討するつもりであること、次年度計画を作成する段階で受入地域、市町に具体的に示し、相互調整を図りたいと述べた。
世羅町産業振興課和泉美智子氏は、同町では6次産業ネットワークを推進してきたが、新しい世代の育成に取り組む時期に差し掛かっていることを報告した。グリーンツーリズム事業を推し進めていくための連携、女子学生と世羅マルシェや農業女子との連携を図れるのではないかとの提案をした。
三次市企画調整課杉谷幸浩氏は、行政の立場から地域課題を解決する手段の一つとして地(知)の拠点の活動を活用したいとの考えが示された。学生に体験してもらうなかで、現場でも課題を見つけやすくなる。活動を単発で終わらせず、学生時代の4年間をかけて地域を分析していってほしい。そのためには、受入地域の住民や行政職員などが将来の地域づくりを担う学生を育成するという視点をもつことが大切であると述べた。
三次市布野支所地域づくり係植岡幸弘氏は、本年度の活動は、さまざまな体験を組み込んだプログラムにしたために、少し詰め込みすぎたとの印象を持った。次年度はどの学年が来てくれるか、それによって対応を検討したいとのことであった。
東広島市農林水産課宮岡志帆氏は、ファーム・おだで体験学習をしたのは1年生であり、現地に関する課題発見や提案というものがなく残念であったと述べた。この活動の目的の一つは、地域に関わる人材の育成を目指すことであり、広島県や東広島市に関する情報発信ができる学生に育ってもらいたい、普段の生活のなかでも地域課題を見出して欲しいとの期待が述べられた。
細野准教授は、地(知)の拠点整備事業の活動にとって、継続性が最も大切である点が、参加者の共通認識になっているとまとめた。また、広島大学の目標値の設定の仕方、学生の課題解決能力をいかに向上させるかに対する期待が表明された点を確認した。
地域活性化に向けて広島大学にどのような役割を期待するか
大崎上島町食文化海藻塾塾長道林清隆氏は、今回の体験学習を受け入れた経緯を説明した。広島大学の教員がこれまで大崎上島に対して果たしてくれた貢献が大きかったという。授業の一環ということもあって、参加学生のすべてが積極的であったわけではない。今後は、学生自らが積極的に企画・提案していくことに期待している。
農事組合法人ファーム・おだ組合長理事吉弘昌昭氏は、地域には課題はたくさんあり、学生がそれらを客観的に観察して意見を出してくれることを期待している。吉弘氏は、農業体験は継続性が重要であり、種まきから収穫、加工・販売するまで体験してわかると考えている。
世羅町世羅幸水農園組合長理事原田修氏は、世羅町が取り組むグリーンツーリズムで、どうやったら地域全体が儲かるのかという課題を抱えており、広島大学には地域全体が活性化するための本当のグリーンツーリズムの在り方を探って欲しいとの期待を述べた。
大崎上島町金原農園金原邦也氏からは、連続的な農作業体験を経験すべきだとの提案があった。今回の体験学習では、学生はせとかの摘果を行っただけである。愛媛大学では学生が収穫した柑橘を持ち帰って販売までしている。ここまでやって初めて、農業がわかると言えるのではないか、と指摘した。
三次市株式会社布野特産センター代表取締役廣田幸男氏は、島根県境にある三次市布野町は山間地で高齢化率が40%と高いため、自然を生かしていける若い人材が欲しい。この点で広島大学の学生の皆さんに期待したいと述べた。
広島県地域政策局中山間地域振興課三島史雄氏からは、広島県は中山間地域と大学等との連携事業を実施しており、大学生に対して旅費等の費用を支援していることの説明があった。多くの大学生が地域に入り、勉強してもらうための支援策である。広島県内では、広島大学を含む3つの高等専門機関が地(知)の拠点整備事業に採択されており、将来を担う人材を育成する絶好の機会である。広島県は、中山間地域の人材育成を図り、特に中山間地域外からの若い人材等との交流を積極的に行うための施策を強化していくこととしている。
安芸太田町地域おこし協力隊西尾友宏氏は、受入地域が学生に期待しすぎではないかとの懸念を示した。学生の立場からみると、地域課題の発見や解決と言われると重く受け止めてしまわないか。最初は遊び半分でもよく、地域に触れるところから始まってもよいのではないかとの意見であった。
共同宣言
細野准教授は、円卓フォーラムを締めくくるにあたり、参加者有志による共同宣言を出したい旨の説明を行った。共同宣言の内容は次の通りである。
1.広島大学は、中山間地域・島しょ部とともにあり続け、現場主義に基づいた、地域
志向型の教育研究活動に努めます。
2.中山間地域・島しょ部は、広島大学に地域に根差した教育研究活動を支援し、地域
の視点、農林水産業の活性化の視点から、提案を行います。
3.地方行政は、中山間地域・島しょ部と大学との交流連携を、地域振興の有効な手段の一つとして位置づけ、これを支援します。
4.中山間地域・島しょ部、地方行政、広島大学の三者は、このような活動を通じて、
次世代を担う若手世代にエールを送り続けます。
まとめと閉会挨拶
共同宣言を受けて、中山間地域・島しょ部領域対策の責任者である山尾政博教授が、まとめを兼ねて閉会挨拶を行った。地(知)の拠点整備事業に採択されて以降の活動は、参加学生はもとより、教員にとっても有意義なものであった。受入地域・自治体との調整、体験型教育の準備の仕方など、実務面での戸惑いもあったが、多くの方々に支援していただき、学生に有意義な活動を体験させることができた。改めて山尾教授より謝意が示された。
地(知)の拠点活動は、参加学生が地域の人々と交流・体験し、農業・水産業及び地域の生活文化を学ぶ第1段階から、“場”が抱える問題や課題を、地域の人々と協同で勉強し、地域の“生活”“文化を考える第2段階に入る。地域体験を踏まえて幅広く、より深い学習ができるように仕向けていくことになる。
体験型の地域志向教育を実践するために、多くの学生・院生が教務補佐員(TA)として参加し、1年生の地域体験活動をうまく導いてくれた。担当教員、コーディネーターは、彼らが果たした指導的な役割を評価し、今後は学生間で地域交流の経験や地域課題に関する知識が引き継がれていくようなシステム作りに取り組みたいと考えている。
地域志向型教育、地域が抱える課題を研究するための諸準備が必要である。地域連携を進めるノウハウをもった人材を配置し、分野横断的な活動を組織するコーディネーターの役割が決定的である。学生・教員が地域で活動し、地域の人材が教育に貢献していただくためのシステム作りが大切である。地(知)の拠点整備事業の活動に取り組むなかで、大学自身が地域連携と交流に関する能力を高めなければならない。
山尾教授は、受入地域のご協力者、自治体関係者からいただいたご意見やご提言を踏まえ、今後どのような方向を目指すべきかについて、検討していく所存であると述べて、閉会の挨拶とした。