第3回円卓フォーラム第1部

第3回円卓フォーラム

第1部 体験型教育プログラムの成果と評価

教養ゼミによる体験学習の成果

9 学生、連携市町、地域の皆様の報告に先立ち、天野通子特任助教が中山間地域・島しょ部対策領域の目的、活動の目指すもの、活動内容、成果等について報告した。2013年度に活動を開始してからすでに3年余りが経過しているが、体験学習を始めとする活動に対する学生の評価は高く、中山間地域・島しょ部に対する認識を深めるとともに、専門教育に対する学習意欲を高めるきっかけにもなっている。教員の間では、学生の中山間地域・島しょ部への関心が高まり、体験学習等が専門教育に対する刺激になっていると評価を得ている。

円卓フォーラム 1天野

冨永ゼミからの報告

10 本年度に体験学習を行った2つの教養ゼミのグループが報告を行った。冨永ゼミは、本年度の体験学習発表会で最も高い評価を得た。参加学生は、東広島市安芸津町でJA芸南とジャガイモ農家の大成秀和氏のご協力のもと、ジャガイモの収穫と選別、JA芸南で商品化したびわの葉茶の試飲などをさせていただいた。JA芸南と大成氏から、事前に「ジャガイモと土について、JA芸南で開発したジャガイモの加工品の販売を拡大するにはどうしたらいいか」という課題をいただいた。学生は、事前学習でJA芸南が開発したジャガイモを使った特産品について調べた。また、安芸津の赤土について調べ、ジャガイモ生産に適している理由を述べた。1つ目は、土壌が酸性であり“そうか病”になりにくいこと、2つ目は団粒構造のため、程よく水分が保持され、適度に土壌も乾燥しているため芋が甘くなりやすい、3つ目は格子構造のため、水分が閉じ込められ干ばつに強い、4つ目は砂状の土壌のため、ジャガイモに均等に圧力がかかり球形で密度の高いジャガイモができることであった。体験学習の後、学生はJA芸南で栽培・販売されている3種類のジャガイモ(出島、農林1号、アンデス赤)を使って調理をし、味や触感の違い、調理のしやすさなどを調べていた。最後に、学生はジャガイモの機能性に着目して新商品の提案や宣伝方法等を述べた。

円卓フォーラム 2冨永ゼミ

船戸ゼミからの報告

11 船戸ゼミは、三次市の道の駅ゆめランド布野を拠点にした体験学習の成果を発表したが、昨年度からのゆめランド布野と生物生産学部の学生の共同研究から生まれた「オリゼさんのアイ酒(酒粕アイス)」に関する内容も含まれていた。教養ゼミ体験授業を受講する学生や微生物機能学を専攻する学生・院生も加わって、酒粕アイスのアルコール濃度分析、味の評価、ネーミングやマスコットキャラクターの企画などに参画することができた。今回の取り組みに参加した学生は、「地域を知る・地域と関わる・地域と協働する」という地(知)の拠点のステップを踏んで製品開発に至る成果を実感できたことで、三次市や地域の皆様への感謝の気持ちとともに、今後も地域に貢献したいという意欲が一層高まったとのことである。この過程で、「企画に向けてみんなの意見を一つにまとめていくことの難しさを知った」「将来食品開発の分野に進みたいと思っているので、体験できてよかった」と感想を述べた学生がいた。

円卓フォーラム 3船戸ゼミ

棚田の井仁地区におけるインターンシップ

12 初年度以降、中山間地域・島しょ部にて実施されるインターンシップに参加する学生が増えている。体験学習に引き続き、安芸太田町井仁地区にてインターンシップを行った3人の学生による活動報告があった。 学生がインターンシップに参加した動機は様々であった。広島県内の限界集落の生活がどのように営まれているかを体験したい、過疎化した農村がどのような問題を抱えているのかを知りたい、地元に棚田があるので棚田観光の可能性を探りたい、棚田の問題点を学習したい、将来は地域振興や地域の人と関わる仕事をしたいので、地域住民と交流できる作業をしてみたい、公務員志望でありインターンシップを通じた交流を将来に生かしたい、などであった。

13 井仁地区は世帯数の少ない孤立した位置にある棚田集落である。バスなども通っておらず移動手段は車のみである。学生は、病院や商業施設もなく急に治療が必要な際などには、危険であるのではとの感想を述べた。学生は、鳥獣被害が考えていた以上に深刻であることに驚いた。鳥獣被害対策として防護柵が井仁地区を囲うように設置されているが、それでも被害はなくならない。高齢化によって、草刈りなどの防護柵管理作業ができにくくなっている。井仁は日本棚田百選に選ばれるほど美しい棚田だが、高齢化や後継者不足により耕作放棄地が増えている。その対策としてオーナー田制度に取組んでいるが、指導に時間が掛かるなどの課題があることがわかった。

14 このような厳しい条件下にある井仁地区だが、学生は住民同士のつながりや強い連帯感を感じた。住民同士が古くからの知人であり、冠婚葬祭も地域で行っている。学生は地域住民と食事を共にした際には、大家族のような温かい雰囲気を感じた。インターンシップは稲刈りが始まった時期に実施したが、参加学生には、金色に輝いている棚田が印象的であったようである。

円卓フォーラム 4インターン

15 インターンシップに参加した学生は、実際に中山間地域に行って活動することで見識、理解が深まったとの感想を述べた。インターンシップ終了後も、学生たちは井仁地区からイベントなどへの参加のお誘いを受けるなどして、住民との交流が続いている。井仁地区の住民は、地域をよりよくするためには外部からの意見が必要だと考えるようになり、学生も自分の意見を述べることが大事だと言うことに気付かされた、とのことだ。参加学生は、現地に足を運び、実際に活動すること、お互い刺激となるように意見交換を積極的に行うことの大切さを学び、今後の自分たちの研究にも生かしていきたいと述べた。

16 現地体験活動に関する学生の報告に続いて、受入地域や市町がどのように学生を迎え入れ、活動プログラムを提供されたか、また、学生にどのようなテーマに関心をもって地域のことを学んで欲しいと考えているかの話題提供をお願いした。

 

安芸太田町井仁地区イニピチュ会のプログラム

17 体験学習とインターンシップの受入地域からは、安芸太田町井仁地区イニピチュ会の河野司氏地域おこし協力隊の友松裕希氏が、「地域活性化からみた体験学習・インターンシップ」、について報告した。

 河野氏はまず、インターンシップに参加した学生の発表に対し、非常によくまとまった発表をしていただいたと感謝を述べた。広島大学の学生との付き合いは、10年近くになり、今では広大の皆さんの手助けがないと生活していくことも難しいとのことである。人口が減少する中、地域住民もどうにかしようという思いで一生懸命生活しているその姿を、学生に見ていただき、今後に生かしてほしいと願っている。若い人々に来ていただき、知恵を頂けることで助かることもあり、「負けずに頑張ろう」という思いで活動していると述べた。

円卓フォーラム 5井仁

18 続いて、インターンシップの活動内容について、地域おこし協力隊員の友松氏より報告があった。井仁では今回が2回目のインターンシップとなった。初年度のインターンシップでは、水路掃除や草刈り、枝打ちなどの農作業が中心になった。地域内で活動内容を決める話し合いが難航し、準備が不十分であった。学生が期待した米作りに関する作業がなかったが、「なぜ草刈りをするのか」、「イノシシの防護柵の管理」などの大切さを伝えきれなかった。また、農作業が中心であったため、インターンシップに関われる地域住民が限られ、特定の人に負担が集中してしまった。成果としては、井仁地区に愛着を持ち、地域行事や企画に加わってくれる学生ができた。具体的には、毎月行われるサロンと呼ばれる茶話会にも参加してくれ、学生がご飯を作ってくれるなどの活動が続いている。若い人が来てくれるので、茶話会への地域住民の参加が増えている。

19 今年度のインターンシップは、受け入れ時期を稲刈り時期の9月中旬に変更した。参加人数は4名(男性1名、女性3名)で活動内容は学生が説明したとおりである。今回はインターンシップの活動内容を多彩にして、関わる地域住民を増やすように努めた。草刈りや稲刈りなどの農作業に加えて、木工細工の体験、高齢者宅の障子の張替えなど、生活面での体験も盛り込んだ。また、外部の人が開催する野草を学ぶ会への参加も取り入れた。交流会やワークショップも企画し、今後の活動をサポートしてくれる人材ができることを期待した。

20 河野氏らは、「地域の何を学んでほしいか」という点では、井仁地区に住んでいる人を知ってもらい、こういう生き方もあるということを参考にしていただきたいと考えた。自然の中で生きていく術や支え合いの精神を学んでほしいと思った。井仁地区では、宿泊施設としている井仁棚田交流館を活用し、観光や雇用といった面でも地域活性化に貢献する拠点を目指している。学生には、他地域の事例や井仁の棚田でもできる提案をしていただきたい。また高齢化で担い手が不足しているので棚田作業の省力化技術についても、研究していただきたいとの要望を河野氏・友松氏は述べた。

 

河川漁業の大切さを伝えた太田川漁業協同組合

21 体験学習を実施している太田川漁業協同組合(太田川漁協)の苗代彰氏、一月高志氏は、「太田川での体験活動プログラムを提供して」について話題提供を行った。

 太田川漁協は、広島市安佐北区可部町今井田という地域にあり、以前は2、000名ほどいた組合員も約780名まで減少した。漁協では、広島市水産振興センターで生まれた稚鮎、約77万匹を4~5月まで飼育し太田川に放流し、大きく育ったアユが太田川に戻ってきてくれることを期待している。

円卓フォーラム 6太田川

22 今回の教養ゼミ体験学習は、「見ていただき、手で触っていただきたい」をテーマに計画した。体験学習を行った場所は広島市安佐北区久地という地域で、吉山川という支流である。学生には川にたくさん流れてくるゴミ・捨てられているゴミを見てもらい、「なぜこんなものが川にあるのだろう」、と考えてもらいながら採集してもらった。川には、ペットボトルや空き缶、大きいものではカーペットなどもある。河川の清掃は、年に一回、漁協組合員が総出で行っているが、学生にはその活動に参加してもらった。足の踏み場もないくらい流れ着いたゴミを見られることは恥ずかしかったが、ともかく現状を見てもらいたかった。川の中には石ばかりではなく、砂もあるが、この砂が魚の敵である。砂が石と石の間にめり込んで魚の隠れ家を奪い、魚は草の間を住処にしている。漁協は本来ならこの砂を除去する作業を行いたい。学生の皆さんの頑張りで、川が本当に綺麗になった。

23 近年、川に触れる機会が極端に減っている。学生には、箱メガネを使い水中生物の観察をしていただいた。実際に魚を採ったりする学生もいて、非常に楽しそうであった。昼食には太田川で漁獲された鮎を自分で焼いて食べてもった。河川漁業の紹介をし、漁業に関する地域ルールを話し、作業用具、釣り道具などに触れてもらった。河川漁業に従事する組合員としては、大学生が少しでも川のことを好きになってくれればいいと思って取組んだ。事後の学生アンケートではいい評価をいただいたこともあり、次年度は趣向を変えて別のことも企画してみたいと思っている。川にはいいところがたくさんあるので、海ばかりでなく川も好きになり、川の魚も食べてほしい、とのことである。

 

自治体と地域の視点から:大崎上島町役場と海藻塾

24 毎年、複数の体験学習を行っている大崎上島町からは、「海と島の体験活動プログラムを提供して」をテーマに、大崎上島町食文化海藻塾の代表道林清隆氏大崎上島町役場地域経営課の森下隆典氏から報告があった。

円卓フォーラム 7上島

25 森下氏からまず、大崎上島町についてと教養ゼミ体験学習の受入れの経緯について説明があった。大崎上島町は、瀬戸内海にある完全な離島で、気候は温暖で柑橘類を中心とした農業を行っている。その他にも、造船業などものづくりに関する業種がたくさんある。周辺の海域には海藻類のアマモを中心に約300種類程度が生育している。島の最高峰の神峰山(標高453メートル)は、瀬戸内海の115の島が見える観光スポットである。それ以外には、広島レモン、広島サーモンの養殖、オイスターボンボンというノロウィルスにかからない牡蠣を生産している。町では、観光客を増やすために平成23年から”海と島の体験プログラム”を開発し、平成25年から中学生・高校生を中心に体験型修学旅行の受け入れを開始している。これと同じくして広島大学との交流が進んでいる。このような島の特徴から、教養ゼミ体験学習では、柑橘栽培の体験と海藻塾を含めた漁業の2つのプログラム提供している。

26 森下氏は、大学生の体験学習の受入れに際し、行政側では農業・漁業の体験を通じて感じたことを大学での研究に生かしてそれを提言してほしいことを強調した。更に参加した学生の人生設計の中に大崎上島町での体験・経験が少しでも役に立つことができれば幸いである。学生のなかから、将来大崎上島町に移住したいという人があらわれたら、大変嬉しい、と述べた。参加した学生には、大崎上島町が離島という立地条件で柑橘栽培を行い、限られた魚種・漁法を用いて行う漁業の現状を把握したうえで、10年後を予測し、今後検討すべき課題について探り、それらを学んで卒論等で討論し、提案していただきたい。あわせて、担い手不足と後継者確保の問題ついて検討し、大崎上島町の立地条件の中で就労したい、来てみたいと思わせる取り組みは何なのかを研究していただきたい旨の説明があった。

27 海藻塾長道林氏からは、海藻塾の活動、教養ゼミ体験学習の受入れについて報告があった。海藻塾は、以前から生物圏科学研究科付属の水産実験所の加藤亜記准教授との深い連携関係がある。漁業組合の組合員と海藻塾のメーンバーは、加藤准教授から専門的な検知を現場で指導を受け、大崎上島周辺の資源調査や母藻設置等を行っている。教養ゼミ体験学習を受入れようと決めたきっかけは、加藤准教授とのこれまでの連携関係の他に、水産庁の水産多面的機能発揮対策事の全国報告会で、生物圏科学研究科の先生の基調講演を拝聴し、広島大学の先生方の意気込みを感じたからである。

円卓フォーラム 8海藻塾

28 海藻塾の活動は1~5月が最も活発な時期で、観察・調査・増殖等を行っているが、教養ゼミが行われる6月は海藻が非常に少ない時期となる。そのため、参加する学生には申し訳ない思いがあり、海岸の観察やゴミ収集だけでなく、取っておいた海藻をいろいろな料理に調理して試食してもらった。海藻塾では、瀬戸内海の磯焼けや栄養塩不足の問題についても多くの方の意見を聞きながら取り組んでいきたいと考えている。参加した学生の中から、大崎上島をフィールドにして研究を進めていく人が現れたらいいと述べた。

自治体の視点から:世羅町役場産業振興課の取組

29 連携市町の視点から、「地方創生活動における大学との連携の意義」について、二つの役場に報告をお願いした。まず、本年度は二つの体験学習グループとインターンシップを受け入れていただいた世羅町役場産業振興課担い手支援係の和泉美智子氏井口都氏から報告を受けた。井口氏からは、世羅町の紹介とインターンシップの取組について報告があった。世羅町は西条から車で一時間ほど東へ走ったところにある中山間地域で、町内には、駅伝で有名な世羅高校がある。農業も大変有名で、梨の農園も多く県内一の生産量を誇る。

30 今年度のインターンシップは、世羅町で積極的に取り組んでいる6次産業化の取組を見て体験することを目的にメニューを組んだ。一日目は、オリエンテーションで世羅町と世羅町の農業について説明をした。二日目は集落法人である株式会社恵に行き、脱穀や乾燥の施設を見学し、その後キャベツの生産現場で圃場管理の作業を行った。午後は、大豊農園で梨の選果や販売所の見学、ぶどうの選別などを見学し、規格外の梨を自分でむいて試食した。三日目は、集落法人聖の郷かわしりでアスパラガスの収穫体験・選別の見学をした。この後、町内にある様々な産直市場を見学した。移動後に、観光と農業を結びつけて体験型の観光をされている酪農家のファームランドドナで取り組みの背景を聞き、チーズ作りの体験をおこなった。四日目は、世羅町で6次産業化総合化事業において制作した商品のサンプリング調査を道の駅で行った。消費者の声を直に聞いて、どのような商品が売れるのか体験してもらった。最終日にはワークショップを持ち、これまでの体験を踏まえて「今後の6次産業化のあり方」、「どうやって世羅町に来てもらうか」、をテーマに意見を交換した。井口氏は、学生が考えたアイデアの中には面白いものがいくつかあり、印象に残った、と述べた。

円卓フォーラム 9世羅町

31 和泉氏からは、教養ゼミの受入れと大学との連携のあり方について報告があった。教養ゼミでは、5月28日に梨農園で一次摘果の作業を体験した。梨は世羅町を挙げて振興しているが、一昨年度から黒星病という病気にかかっている。世羅梨のブランドを守るプロジェクトとして病害花と病害葉を取り除く作業を世羅高校の学生もおこなっているが、広島大学の教養ゼミでもプログラム化した。

32 世羅町は合併後13年が過ぎたが、年々200人の人口減があり、合併時19、000人の人口が現在16、000人となり、農業においても75歳を超える高齢者の占める割合が高くなった。6次産業化を進めるにも人材育成が重要な課題となっている。今後は高校や大学としっかり連携して人材育成を図り、様々な研究活動に協力しながら地域課題の解決を図っていきたい。世羅町には梨を始めとした果実がたくさんあり、機能性や効能の検証などをしながら加工食品の開発を産学官連携でおこないたい。連携を通じて、人的資源の交流にも取り組めないかと考えている。再来年度は5大学合同ゼミも世羅町をフィールドに開催して頂けるとお聞きしており、今後も世羅町と広島大学の連携を深めて、産業振興の創出に努めたいと述べた。

 

自治体の視点から:三次市役所企画調整課の取組

33 三次市役所企画調整課の杉谷幸浩氏が、地域との調整をどのように行ったかに触れながら、役場として体験学習やインターンシップをどのように受け入れたかを報告した。また、ゆめランド布野の道の駅での学生と共同した酵母入りアイス作りの経験を披露していただいた。三次市は広島県北部の中国山地の中心にあり、人口は55、000人で東広島市の1/3程度、一方面積は県内で3番目の広さがある。三次市の観光資源の一つは、霧の海で、ちょうど今頃の時期に見ることができる。ブッポウソウという鳥も日本一の飛来地になっている。なお、三次市と広島大学は、平成19年度に包括連携を締結した。

円卓フォーラム 10三次市

34 地(知)の拠点事業における体験学習の受入れは、平成26年から始まった。受入地域は三次市の方でも検討し、中山間地域の課題があるなかでも積極的に地域活性化に取組んでいる布野町とした。同町は、三次市の北部にあり、冬は1メートル程度の積雪もあり、人口は1、500人の農業が中心の地域である。町内には、道の駅ゆめランド布野や大前農園などがあり、学生などの受け入れ経験をもっている。中国やまなみ街道が開通したことで主要道路の国道54号線の交通量が減り、道の駅の利用者の減少が懸念されている。こうしたなか、道の駅ゆめランド布野は、独自の取り組みで地域活性化に取り組んでいる。

35 教養ゼミ体験学習では、ゆめランド布野を中心に3年間取り組んできた。社長の講義や大前農園での収穫体験、アイスの手作り体験、江の川漁協の協力を得ての河川清掃を行った。インターンシップでは、平成27年から取り組み、こちらもゆめランド布野を中心に行ってきた。毎年3名ずつを受け入れ、その活動は中国新聞にも取り上げられた。

36 こうした活動を続けるなかで、平成27年に受け入れた船戸ゼミの学生から、道の駅と連携して新しいアイスを共同研究したいという提案を受けた。広島大学と道の駅ゆめランド布野、三次市の3者で酒粕アイスの共同研究が始まった。酒粕を使ったアイスに決まったのは、船戸先生が微生物の専門であること、道の駅で新たな地酒を生産・販売することが決まっていたこと、隣の作木町にも地酒があったことなどからである。共同研究では、平成28年夏の完成を目標に、実質4月から月に一回共同研究を行い、4月には試作会を開いて酒粕の添加量を検討し、5月にも再度試作・試食を行い、味を決定した。アイスのアルコール量の測定は船戸ゼミの大学院生が中心となっておこなった。6月の会議では、学生と”オリゼさんのアイ酒”という名称とオリゼさんのキャラクターを決定した。学生にキャッチフレーズや商品紹介のPOP案等の提案をしてもらい参考にした。7月の教養ゼミでお披露目会を開き、8月には広大生協でも販売が開始された。「オリゼ」とは麹菌の学名に由来している。販売状況は、道の駅と大学で約3、700個販売している(29年1月時点)。学生にもPR活動をしていただき大変好評である。

37 酒粕アイスの共同研究では、新聞や地元のケーブルテレビに取り上げていただいた。商品を販売するということで、一定の経済効果もあった。学生にとっては自分たちが考えたものが実際に販売され、良い学びの場になったのではないかと思っている。この共同研究は、地域活性化に非常に意義があるものになった。

38 杉谷氏は、地域体験を通して、たとえ条件が不利と言われる中山間地域であっても、そこに住む人達の様々な取り組みを直接見て何かを感じ、学生の理解関心が深まったのであれば嬉しく思うと述べた。現在は地域体験が中心になっているが、今後は、中山間地域の課題解決に向けた次のステップが大事である。酒粕アイスの取り組みは、地域体験から発展した良い事例の一つである。中山間地域に対する報道は、ネガティブな内容が多いが、今回の体験で面白さも感じていただいたのではないか。今後学生には、条件不利地域でも持続的に農業ができるような生産方法の確立や鳥獣被害の対策について考えてもらいたい。杉谷氏は、行政職員の立場として、学生には社会人になっても仕事の場、生活の場などとしてこの中山間地域に関わり続けてもらいたい、と結んだ。