第3回円卓フォーラム 第2部

第3回円卓フォーラム

第2部 求める、求められる、人材育成プログラム

ワークショップの進め方

39 第1部を閉じる前に、天野特任助教が第2部の「求める、求められる、人材育成プログラム―市町、地域、学生、教職員によるワークショップ―」に関する説明を行った。

ワークショップは、今年度の教養ゼミ体験学習の班ごとに10グループにわかれておこなった。フォーラムにご出席いただいた連携地域・市町の方々は、それぞれ関係する学生がいるグループに参加していただいた。各グループには、上級生がファシリテーターとして入り、司会進行をおこなった。議論の時間は50分、最後に全グループが集まって討論の内容を学生が報告した。

40 討論では、フィールド教育を通じて、学生・教員は地域を的確にとらえる目をどのようにして養うか、地(知)の拠点の活動を連携地域の活性化にどのように役立てていくか、連携市町・地域の方、学生が議論した。討論が進みやすいように、それぞれに話題提供する内容について以下のものを事前に伝えている。

円卓フォーラム 11WS

連携市町・地域の方

1.学生の体験学習、インターンシップ等を受け入れてのご感想
2.学生の地域体験活動に対する評価、改善点
3.地方振興や活性化に向けて大学に期待すること、大学への苦言、提言など

学生

1.COCのフィールド体験に参加して、印象に残ったこと

2.今、フィールド体験したことを振り返ってみると、何ができたらよかったか、知りたかったか

3.2、3年生に進むときに、自分が経験したフィールド体験を地域活動や勉強にどのように生かしたいと思うか

 

太田川漁協・杉野ゼミの報告

41 太田川漁協からは、学生が来てくれてうれしいが、作業が地味だったのではないかと心配している。毎年提供する内容がワンパターンになりがちなので、新しい提案があればほしいとの発言があった。参加した学生は、「鮎の塩焼きを初めて食べた」、「箱メガネで魚を見ることができた人は楽しかった」、「河川の清掃をした人も自分でやってみて大変さがわかった」など感想を述べた。次回への改善点としては、鮎釣りが解禁された後の6月になってから、教養ゼミを行い、鮎釣り体験を取り入れたらどうか。2~3年生になりどのように生かしていきたいかについては、吉山川は水質の汚濁が問題になっているので、知識をつけて水質の調査を行うなどの貢献をしたいと述べる学生がいた。

世羅幸水農園・河合ゼミの報告

42 世羅町役場からは、インターンシップでは今回生物生産学部以外の学生が多く、今までの学生と違う着眼点での話が出て興味深かった、との感想が述べられた。教養ゼミでは、梨の黒星病の発生が減ったという発言をいただいた。学生からは、摘果作業という普段経験できないことができていい体験になった、自分の地元の農業にも興味が湧いた、梨の病気や防カビ対策などの専門的知識を深め、今後の研究に結び付けたいという意見があった。課題としては、現地での現状理解をより深めるために、事前学習をもっと充実できたらいいという意見があった。それに関して、行政や農家の方々が協力しても良いという意見をいただいたと述べた。

世羅大豊農園・三本木ゼミの報告

43 世羅町役場からは、現場のプロの方とフィールドワーク自体も初めての学生が一緒になって活動をすることで、それぞれの異なる視点が交じり合い、普段の現場にはない多様な意見が見られた、と発言があった。学生からからは、自分達が体験した梨の摘果の他に、他のグループが報告した鮎の投網漁など、勉強するだけではわからないことがそれぞれの体験によって知ることができ、更に興味が湧いたという感想があった。課題としては、フィールドワークする期間が限られている点と、一部のことしかわからないことである。学生としてはもっとより多くのことが知りたいので、年単位で定期的に取組むことができればもっと踏み込んだ学習ができる。また、受入農家も学生の体験・研修によって助かることがあるのではないか、という意見が出た。

大崎上島町シトラスかみじま・上野ゼミの報告

44 初めての農作業体験で農業の現場の雰囲気や柑橘がどういった過程を経て作られているか知ることができた。また、農業は高齢者が多く若い人が少ないという現状を実感できたという意見もあった。課題としては、もっと地域住民と話し合う場が欲しかった。高齢者の問題や、新商品の開発などについて話をしたかった。継続的な作業をおこない、摘果した後どのように成長していくのかみてみたい。また、他の地域の実習も体験してみたいという意見があり、実際に体験したことで新たな視点で勉強ができるという意見もあった。

JA芸南・冨永ゼミの報告

45 COCに関することでは、活動の継続性の大切さが議論になった。また、教員の参加があり、学生だけでできないことができる点は良かった。今回の体験内容はジャガイモの選別が中心で、受け入れ先の方も遠慮しているのではないかと感じた。一日保険などに加入するなどして、もっと深い体験をしたいという意見もあった。草刈りなど、実際の農作業はもっと大変なことを体験させてもらいたい。また、商品開発やブランド化を大切にし、外部への発信をして稼げる農業によって若者が定着できるような仕組みを考えたい、と述べる学生がいた。高齢者が多く発信が苦手ということなので、そういう点を学生が補うことができればといった意見もあった。

円卓フォーラム 12WS

三次市ゆめランド布野・船戸ゼミの報告

46 連携地域の参加者から、農業に対して3Kというマイナスのイメージがあったのではないかということを聞かれた。学生からは農業は生きていくうえで不可欠な産業で悪いイメージはない、今回の体験学習は大変楽しかったが、農業のきついところも教えていただきたいと述べた。受入農家から、これからの農業で付加価値や顔の見える農業が大事だという意見を聞き、学生からは、先輩方がアイスの開発をされたように積極的にアイデアを出していきたいと発言があった。課題として、一日の体験では、わかることは少なく体験が思い出で終わってしまうので、インターンシップや自分で行ってみて、体験することが大切だと

大崎上島町海藻塾・前田ゼミの報告

47 普段できないような乗船の体験ができ印象深い体験になった。2年生で配属される、水産コースにも新たな興味が持てた。フィールドワークに関しては、1日限りなので、事前学習でストーリー性を持ち、問題点や改善点を自分たちで深く掘り出して体験すればより良いものになったと感じている。海藻塾では、講義を聞くばかりでアウトプットする場がなかったので、次回は料理の作り方などを教わり、帰ってから自分で作ってみるなどの体験がしたかった。形式張ったものでなく島の人と普通にコミュニケーションを取ることで島の良さももっとわかるのではないかと述べた。

JA芸南・橋本ゼミの報告

48 座学が中心となる授業が多いので、実際に地域に出て体験することは、いろいろな面でプラスになったと感じる学生が多い。じゃがいもに関しても手作業で人手がいるので、人手不足という農業の現状も知ることができた。一方、経営や流通など実際の経済的な側面、安芸津という地域性についてもっと知りたかった。じゃがいもだけでなく、安芸津は東広島市で唯一海があるので、そういったことも取り入れてほしかった。来年度以降、担い手不足など課題を解決するためにどんなことをしたら良いかなどのテーマを持って望んでいくといいと思った。また研究につながるような場所へ行くことができると2~3年生になっても良いと思うと述べた。

安芸津漁協・浅川ゼミの報告

49 他の班の人の話を聞くと、地域の食べ物を食べる機会もあり、楽しそうだった。私達は漁港にたまったゴミを拾い、それを集計することがメインだったので、体験は辛いだけであった。今回の課題としては、漁業について体験をしながら学びたかった、辛いだけでなく楽しいと思えるような体験や漁師さんのやりがいなどもっと聞いて交流を深めたかったという意見があった。今日のグループ討論には、豊栄町のトムミルクファームの沖氏が参加してくださった。この班に豊栄町を知っているのは2人しかいなかった。地域の知名度が低いままでは、インターンシップや学生を巻き込む企画があったとしても、学生は興味をもてないので西条農業高校などとも連携して活動を広めていったほうが良いのではないかという意見があったと述べた。

安芸太田町井仁地区・吉田ゼミ

50 井仁の住民だけは、井仁の棚田を維持することが難しいので外部から人を呼び、守っていくという話になった。そのためには、一つ目に井仁の体験会で木工細工や障子張りなどをして井仁に興味を持ってくれるひとを増やすこと、二つ目はSNSで体験会などを伝えて沢山の人を呼ぶことである。課題としては、どのようにしてアピールするかだが、人が温かいことと風景がきれいなことの他に、美しい棚田、水、生き物を調査すると、より魅力的な発信ができるきっかけが生まれるのではないかという意見もあった。安芸太田町には人とのつながりを大切にする家族のような温かさがあり、それを通じて井仁を知ることで、井仁に興味を持つ人が増えるのではないかと思った。課題としては、事前学習が不足していたことでそこまで親身になれなかったと述べた。

51 グループ討論では、連携市町・地域の方々と学生がそれぞれの垣根を越えて自由に発言し、意見を交換し合うことができた。学生の発言のなかには、教員や連携市町・地域の方が教育的に意図した内容がうまく伝わっていないと思われるものもあった。これらは、教員の責任として今後、溝を埋めていけるように努力していく必要がある。

円卓フォーラム 13細野

フォーラム討論の総括

52  司会の細野賢治准教授が討論をしめくくり、広島県地域政策局中山間地域振興課の横田晋一氏から講評をいただいた。横田氏は自身の大学生活を振り返り、当時は地域に出て体験するこのような授業はなかったのが残念である。今回、学生が現場で感じられたことは多々あり、机上と実際に体験するのは大きく違ったと思う。今回の活動を通じて肌で感じられたことを今後も大切に検討してほしい、と述べられた。広島県は中山間地域が抱える課題解決に力を入れているが、答えは出せていない。県の施策は、ハード面の支援でなく、”ひと・ゆめ未来塾”という研修のような、地域資源を活用できる人材を育てることにシフトしている。興味がある学生にはぜひ参加してほしい。

円卓フォーラム 14横田

53 山尾政博教授がまとめを行った。中山間地域・島しょ部対策領域では、農山漁村地域の強みを活かし、地方創生のための努力をしている地域・市町と連携しながら、食料生産・資源・環境・生態を学ぶ学生を対象に、地域社会で活躍できる人材を育成することを目的にしている。この活動を通して、学生は中山間地域島しょ部の状況に関心を高め、農林水産業、食品産業、食料資源や環境に興味を深めている。高学年の学生は自身の調査研究の内容に反映させていることが確認された。TAとして参加する院生や学生にとっても、地域での活動は有用である。教員は、地域志向型教育の効果を認め、地域・市町が直面する課題を深く理解するようになっている。教員の専門性を生かした知識・技術を地域・市町に提供する動きが広がり、研究としても発展させつつあることが確認できた。

54 円卓フォーラムの場において、連携市町・地域の出席者からは、体験学習・インターンシップ、調査や卒論等を通じて、学生が地域に新たな魅力を発見し、自ら進んで調査研究する仕組みづくりができた、との評価をいただいた。地域・市町と大学が共同し、現在及び将来の人材を中長期的な視点で育てることができつつある。連携地域の活性化の一つとして、大学生や若者を地域に呼び込み、受け入れる基盤作りが進むことが期待されている。体験学習、インターンシップ等により、地域農漁業資源が活用される可能性があり、大学のアイデアと技術を活かした商品づくりの動きにつながる。連携市町・地域の参加者からは、学生や若者の目を通して、農漁村社会や文化を再評価する動きがでてきた、との報告をいただいた。

円卓フォーラム 15山尾

55 地域志向型教育を持続的に実施するには、フィールド教育を始め、地域と深く関わる教育研究分野に応用できるシステムにしていく必要がある。地域と大学で得たノウハウを蓄積し、持続的で効率的な人材育成プログラムの構築を目指していく段階に入ったことが確認された。

吉村研究科長による閉会挨拶

56 閉会にあたり、吉村幸則研究科長が連携市町・地域からの参加者、学生、教職員に対して感謝の意を表した。農学分野を専攻する学生が中山間地域・島しょ部の農漁業、食品製造業、流通はもとより、社会状況に対する理解を深めることは意義あることである。COCの活動は地域志向科目の充実につながっており、今後の人材育成のあり方を示すものになっている。大学が地域との連携・交流をはかり、より深く社会貢献していくためには何が必要かを、COC活動は示してくれている。今後も、中山間地域・島しょ部領域における大学全体での取り組みを強めていくことが述べられた。

円卓フォーラム 16吉村 

善村室長による閉会

57 最後に善村支援室長が、円卓フォーラム参加者全員に対して謝辞を述べ、閉会を宣言した。