1. 大長ミカン農業の展開と課題~「ももへの手紙」の舞台として
講師:呉市役所豊市民センター豊支所 主幹 前田義信 氏
大崎下島にある豊町は、大長みかんでよく知られている。また、近年はその島の美しさが評価され、映画「ももへの手紙」の舞台としても取り上げられた。
まず、みかんに焦点を当て歴史を遡る。豊町はもともと貧しい町であったが、1902年に青江早生温州みかんを導入したことを機に、その味や早い時期から市場に出回ることが高い評価を受け、大長みかんとしてその名が全国に知れ渡った。もともと条件不利地域で米作りなどには適さない豊町であったが、ここで美味しいみかんが作られる理由の一つにその気候や土地がある。傾斜がきついので水はけがよく、また、日がよく射すことがみかんの栽培に適している。この大長みかん栽培を機に、豊町のみかん農家は町の名前同様に豊かな暮らしを手に入れたといえるが、現在ではみかん農家の収入は低くなっており、今後いかにして豊町の農業や地域を守っていくかが大きな課題となっている。また、最近では、大長みかんに加え、大長レモンの栽培にも力を入れている。豊町で生産されるレモンは無農薬なので生で食べられ、糖度も高く美味しいことを強みに、「丸かじりレモン」として今後消費者に強くアピールしていく。
次に、映画「ももへの手紙」の舞台となったことに関して説明された。映画では、実際に町で見られる景色が映画の中でも忠実に再現されている。「空は青く、島は緑、海は水色」という美しい景色はそこに訪れる人々を癒し、さらにそこ住む人々の温かさも豊町の大きな魅力といえる。
今回は、条件不利地域といえる豊町についての講演であった。その話の最後で講演者の前田さんが、「これからは、農業を守ることだけを考えるのではなく、どうすれば自分の故郷や大切な地域を守り維持できるのか、どうすればそこにずっと人が居続けられるのかをもっと考えなくてはならない。50年後、100年後の地域が想像できるか。」と話されていたのが、とても印象的であった。地域にはそこに住む人がいて、生きるために働き、生活をし、そして人や自然との繋がりをもっている。そういった面を再認識し、今後も地域や農業の課題について考えていきたい。
2. サタケ・条件不利下での取り組み
講師:株式会社サタケ中国販売推進課・課長 松本吉人 氏
講演では、株式会社サタケの概略、ポストハーベスト加工について、そして、サタケにおける条件不利下での状況・対策についてお話を伺った。
サタケは東広島市西条に本社を構えており、3大穀物(米、小麦、穀物)の加工機械を中心に製造を行っている。 これらの機械は主に、農協、精米工場、農家等との間で取引されている。また、サタケは中小企業であり、かつ同族会社でもある。
ポストハーベスト加工については、収穫されて工場に送られてからの、工程を多さが印象的であった。特に、今回映像に出てきた工場では、異物を取り除くための工程が12もあることに驚いた。
条件不利下の取り組みについては、日本で第一次産業の衰退が懸念される中、農協や農家等を顧客とするサタケは、精米機製造だけでなく、GABAおにぎり、米粉パン、車のバンパー選別機に関する事業などさまざまな新しい取り組みも行っている。また、1980年代から、進退を繰り返しながらも、中国において、加工機械の販売も展開している。
3. 広島県の中山間地域対策について
講師:広島県中山間地域振興課地域振興グループ・主査 三島史雄氏
広島県における中山間地域は、人口では全県の約1割、面積では権殿7割以上を占める。また、中山間地域の役割には、地域資源を保持や、食料供給や水源涵養といった公的機能、さらには癒しの場の提供などがある。中山間地域は、暮らす人々の生活の場だけでなく、都市部を含む県民全体に欠かすことのできない役割を有している。
また、中山間地域は、少子高齢化や農林水産業等の基幹産業の低迷、日常生活を支える機能の低下といった課題を抱えており、生活の基礎的条件整備と、持続可能な地域構造への転換(まちづくり、産業等)が必要となっている。広島県の中山間地域の集落においては、全国に比べて小規模高齢化が進んでいる。そうした中、広島県では平成25年10月に広島県中山間地域振興条例を制定し、豊かで持続可能な中山間地域の実現を目指している。
今回の講演では、地域産業の活性化と地域社会の再構築に向けて、県内でも特に力を入れていると思われる安芸太田町の取り組みについても伺った。将来を見据え、住民の意思を尊重した取り組みを行っており、中山間地域対策のモデルケースとなる可能性をもっている。
4. 農村をプロモーションする
講師:農事組合法人世羅高原農場・広報担当 吉宗五十鈴 氏
世羅高原農場のある世羅町は、農業が盛んであり、花や果物の観光農園もいくつかある。人口は1万7000人ほどで、年々減少傾向である。また、近年、6次産業化への取り組みも活発に行っている。
世羅高原農場は、1995年にチューリップの観光農園として始まった。それ以前は、たばこの生産をしていたが、不景気もあり、新たな道として観光農園を始めた。最初はチューリップのみの栽培であったが、今ではひまわりやダリアなど、季節によってさまざまな花の栽培を行っており、全体の栽培面積も当初の1.5倍ほどになっている。そうしたなか、年間来場者数は年々増加傾向にある。
世羅観光農場では、広報活動に大きく力を入れている。ウェブサイトやfacebook、新聞やTVなどさまざまな媒体を通して、情報発信を行っている。そうした中で、見る人の目を引く写真の使用やリアルタイムの発信、ファン作りなどを特に意識しているそうである。広報担当の吉宗さんは、「カメラ女子」という取り組みを行っている。この活動は、ファンづくりや仲間づくり、地域のイメージアップ、情報を素敵に発信できる人材が育つといったことが期待できると言う。また、世羅町の「6次産業化ネットワーク」と関わった取り組みも行っているが、世羅全体の入込客数は年々減少している現状である。今後はさらに地域住民が一丸となって、世羅の魅力を外部に発信していくことが地域の課題といえよう。
5. 地場商品を開発する―地域の恵みを加工品に―
講師:フルーツ夢工房MUKAISHIMA・代表 半田史子 氏
おのベジ槇山農園・代表 卯元幸江 氏
半田さんは向島で農業をしており、すだちやみかん、ゆず、ネーブルなどを作っている。また、そうした果物を加工してケーキやジュース、ポン酢などを作っている。これら柑橘や加工品は、地元の直売所などで販売している。半田さんは、これらの取り組みについて、「周りの人にもっと農業の素晴らしさや、新鮮な食べものの美味しさ、喜びなどを知ってほしい」との想いを語ってくださった。
卯元さんは、もともと実家が農家であり、結婚を機に前の仕事を辞めて、ご自身も農業をするようになった。今では100種類以上の野菜を作っており、野菜の移動販売や地域のレストランなどへ野菜販売も行っている。そうした営みの中で、新鮮な野菜をお客に提供するだけでなく、野菜の調理法や栽培方法など、野菜の美味しさや魅力を伝えようと努力されている。また、美味しいけれど熟しすぎで出荷できない果物や余った果物を使って、ジャムなどの加工品も作っている。卯元さんは、「野菜や果物の魅力を多くの人に伝えたい」との想いを語ってくださった。
お2人とも、女性で、比較的若く、農産物の加工をし、農業や農産物の魅力を伝えたいという想いをもっている。また、これまでの活動を通じて、人との繋がりの大切さも強く感じているようである。そうした中で、数年前に2人は出会い、それ以来交流を重ねているそうであるが、共通点のある仲間同士、互いにとって励みになっている。今後、2人で何か共同の取り組みもしてみたいと、目をきらきらさせながら語って下さった。
6. 地域とともにあり続ける 瀬戸田のパティシエの取り組み
講師 株式会社パティスリーオクモト・代表取締役社長 奥本隆三 氏
瀬戸田檸檬菓子工房パティスリーオクモトの代表取締役社長の奥本さんは、25歳で自身のお店を開業し、瀬戸田のレモンを日本中ひいては世界中に広めようと、積極的に活動している。
もともと、奥本さんは神戸でケーキ職人として働いていたが、現在は瀬戸田町でケーキ屋をしている。その理由の一つは、「地元の人に喜んでもらいたい。」「瀬戸田をもっと誇れる島にしたい。」という強い想いがある。そうした想いをもつ中で、奥本さんは、瀬戸田が生産量日本一を誇る「レモン」に注目し、瀬戸田レモンケーキ「島ごころ」を通して全国に瀬戸田のレモンをアピールしている。
現在、パティスリーオクモトのメイン商品である「島ごころ」は年間80万個以上売れており、本店の工房だけでなく、お土産屋さんや空港など多くのお店で販売されている。また現在では、瀬戸田に限らず瀬戸内や広島県全体においてもレモンをアピールするとともに、市場を広げるといった目的もあり、奥本さんは他のケーキ屋にもレモンケーキの販路先などを紹介している。そうした中で、瀬戸田という島の条件不利を逆手にとって、「他にはマネできないことをする」、「レモンケーキを全国に広める中で、島ごころを一つのブランドとして位置づける」といったことを意識している。
奥本さんは、常に新しい戦略を考えており、それを実行するためには声に出して人に伝えることを心掛けている。他から学ぶ姿勢や自分のビジョンも常に絶やさず持っており、そうした考えや積極的な姿勢の背景には、やはり地元への強い想いがある。強い想いがあり努力を続ければ、それに共感し応援してくれる人も出てきて、それが今のパティスリーオクモトの発展にも繋がっている。今回講演を聞く中で、経営者でありながら、「地域に雇用を生むこと」や「地域の人に誇りや生きがい」を感じてもらうことをとても大切にされていることが印象的であった。
今後は、海外も視野に入れて、新たな取り組みを始めようとしている。これからの活躍に大いに期待したい。
7. 集落法人における6次産業化の取り組み実態
講師:農事組合法人ファーム・おだ 組合長理事 吉弘昌昭 氏
農事組合法人「ファーム・おだ」は、東広島市河内町の小田地域にあり、経営規模は103haに及ぶ比較的大きな農事組合法人である。平成17年に設立したが、その背景には、小田地域の「過疎化」や農業を主とする「産業の衰退」、「集落機能の低下」などがある。
集落法人設立のメリットはいくつかあるが、例えば「効率化やコスト削減」、「ロットの拡大による販売戦略の有意性」、「税制上の優遇措置の対象」がある。そして、集落法人を推進する目的としては、①地域・集落の活性化と担い手の育成確保(若者に魅力ある環境作り)、②優良農地の確保と食料自給率(39%→目標50%)の向上、③清水など多面的機能の確保と環境保全の促進(土づくり活動)を挙げている。近年は、6次産業化にも取り組んでおり、食料自給率の向上や荒廃地の発生防止のため、米粉パンの製造・販売を行っている。
また、ファーム・おだは、「組合員みんなで協力し利益を得て、それをみんな分け合う」ということを大切にしている。今後の大きな課題は「若い後継者の確保」であり、黒字経営や農業の活性化により若者を惹きつけ、今後の法人の継続、そして地域の維持・発展につなげていきたいという。
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