都築ゼミ 東広島市 JA芸南

体験授業と地域講義

担当ゼミ責任者 都築政起
地(知)の拠点担当教員 大泉賢吾・天野通子・細野賢治・山尾政博

1.JA芸南安芸津地域(東広島市)と体験授業概要

JA芸南は広島県南部に位置し、瀬戸内海に面した東広島市安芸津町、呉市安浦町・川尻町地域が管内となっています。 農業振興を通じて、「食」と「農」と「緑」を守ることを基本コンセプトに、地域はもとより地域外との交流連携にも力を入れています。

広島県内では温暖で降雨量が少ない地帯であり、安芸津のじゃがいも(馬鈴薯)、びわ、かんきつ類の栽培が盛んに行われていますが、他の中山間地域島しょ部同様に、傾斜地農業の厳しさもあり後継者の確保が進んでいません。

JA芸南の特産品であるジャガイモは、水持ちの良い粘土質のレンガ色の「赤土」で、水はけが良いという土壌に特徴があり、おいしいじゃがいもを栽培するのに大変適しています。また、管内では多くのかんきつ類が栽培されており、温州みかんは極早生種・早生種・中生種・普通種・晩柑など3月上旬まで出荷しているとのことです。

今回体験授業に組み込んでいただいた「びわ」も当地域の特産品であり、古くからの産地として知られています。今回の体験授業の時期は、びわ収穫の最盛期でした。

JA芸南職員の指導の下、ビワの生産者である中岡さんが栽培するビワ園の収穫体験やビワの葉茶用のビワの葉を採取する体験授業の様子が行われ、その後JA芸南の特産品栽培や加工品づくりなど多様な取り組みの講義がありました。

芸南スケジュール

 

2.特産びわとビワの葉茶用の葉の採取体験授業

安芸津湾を望む山の傾斜地にあるびわ園

安芸津湾を望む山の傾斜地にあるびわ園

風早駅近くのJA芸南の集荷所から、バスで5分ほどの現地に向かいましたが、かなりの上り坂でした。びわの園地は、安芸津湾を見下ろすとても景色の良いところでした。雨が心配されましたが、太陽がのぞく天気となり一層美しい景色を見ることができました。

しかしながら、ビワ園は、足を滑らすと転げ落ちそうな急傾斜地で、見るからに作業の困難さがわかる状況でした。 地元農家で講師をお願いした中岡さんご夫婦から、びわの収穫の仕方と、びわ園経営の現状などについてお話を伺いました。

このびわ園を管理する大変さと、条件不利地域の傾斜地農業を次の世代につなぐ難しさなどがよくわかりました。

また、びわの収穫では、斜面で足元が不安定な中、枝に登ったり、脚立を使ったりする必要があり、ひとつひとつの実にかけた袋を収穫時期に何度も袋をはずしては実の熟れぐあいを確認して収穫する大変さを学びました。

手の届かないところが多い高い木の上でやわらかい身に傷を付けないよう、またびわの美にわずかに生えている産毛が取れないよう商品価値を無くないようにしながらの、デリケートな作業にも気をつけなければなりません。

援農ボランティアも受け入れていらっしゃるようですが、この作業の連続は本当に大変です。

JA芸南が商品化しているビワの葉茶に使う「びわの葉の採取」を行いました

つぎに、JA芸南が商品化しているビワの葉茶に使う「びわの葉の採取」を行いました。古来からびわの葉は、薬効の宝庫として知られていたそうです。全員で大きな網袋いっぱい収穫しましたが、重さを測ると少ないことが実感され、びわの葉の採取の大変さもよくわかりました。

JA芸南が商品化しているビワの葉茶

2.JA芸南と「おもろい農」についての講義

JA芸南集荷所の中で、土居さん、中岡さんからの講義

JA芸南集荷所の中で、土居さん、中岡さんからの講義

JA広島果実連JA芸南駐在の土居さんから、安芸津地域の柑橘栽培やびわ栽培、加工品開発に取り組んでいるJA芸南の講義を受けました。特に、JA芸南の果樹生産者や土居さんたちが立ち上げた「広島県担い手同志組合~おもろい農!~」の取り組みが興味深い内容になりました。

このおもろい農の理念は「農作業だけに限らないおもしろい農業を提案する、持続発展可能な農業経営体を一般市民や消費者を含めて構築する(伝えたいのは地域に住む人々や農業の魅力)」であると説明されました。

おもろい農は、ホームページも開設されており、土居さんは「一般市民や大学生約50名で構成されるボランティア組織おもろい農!と安芸津120名の果樹生産者で組織される芸南果樹研究同志会の役員がメンバー。主に援農ボランティア事業を中心として広域展開を行い、その他安芸津オリジナルの香酸柑橘じゃぼん生産・農作業受託・貸し畑・地域特産品を使った料理教室、農家の学校果レッジ(新規就農者に技術習得させるシステムで、認定農業者を中心とした地元生産者による指導体制)など、多様な事業展開を行っている」とのことでした。

具体的には、①じゃぼん生産(安芸津オリジナルの香酸柑橘)、②援農ボランティア事業(県内4拠点)、③農家の学校『果レッジ』事業(貸し畑・果樹オーナー制・WEB講習会)、④観光農園事業(農産物だけでなく地域の良さPRしていく)、⑤料理・クラフト教室事業(地域特産品を使った教室)、⑥畑de愛事業(農村青年に出会いを提供する)などが主な事業内容です。また、これらは様々なイベントとして紹介されるなど、一般市民への「農」の情報発信が積極的に行われていました。

3.お昼には、特産品ジェラードを味わうなどで交流

上品な味でとてもおいしい特産ジェラード

上品な味でとてもおいしい特産ジェラード

講義終了後は、JAのお弁当といっしょにびわの葉茶のペットボトルが出されて、学生とJA,地元の中岡さんが交流を行いました。中岡さん手作りの「パン菓子のようなサンド」も頂戴しましたが、とても上品な味でおいしかったです。

また、特産品の入ったJAのジェラードアイスを買って食べましたが、じゃがいも、びわ、せとか、いちじくなど、どれもおいしかったです。 最後に、JA直売所ふれあい市の前で、全員がそろい、関係者にお礼の挨拶をし、記念写真を撮り、体験授業を終わりました。

学生たちは、体験授業を通じて傾斜地農業の大変さを理解し、援農ボランティアなど自らも主体的に参加して地域に貢献しなければという気持ちが芽生えたようでした。 なお、この体験授業の様子は中国新聞に掲載されました。学生は、中国新聞のインタビューを受け、作業(体験授業)や地域課題を知る大切さなどの感想をしっかりと話をしていました。

都築ゼミ体験授業の発表

都築ゼミ体験授業の発表

平成27年7月22日(水)に実施した地(知)の拠点教養ゼミ体験授業発表会兼第2回円卓フォーラム第1部における都築ゼミ(1年生 10名)の発表概要は、以下の通りでした。

  • 私たちはJA芸南にビワの収穫体験をしに行ってきました。JA芸南は、広島県西部沿岸に位置し、呉市川尻町・安浦町、東広島市安芸津町で活動している農業組合組織です。年間平均気温15℃、降水量1300ミリという温暖少雨な気候を生かし、びわ、いちじく、柑橘類、じゃがいもなどの特産品を生産しています。
  • びわは、長崎早生、茂木、田中といった品種があり、品種により収穫時が異なります。JA芸南では、全生産量の90%以上が「田中」で、田中は甘みが強く、適度な酸味があり、寒さに比較的強い品種です。びわは、非常に体によい食べ物で、βクリプトキチンサン、クロロゲン酸、タンニン、ビタミンB17を含み、がん予防、アンチエイジングなどに効果があります。
  • JA芸南では、ジャボンも取り扱っています。ジャボンは、安芸津町でしか栽培されていない柑橘類で、サプリメント、ママレード、サイダーなどの加工品に用いられています。ジャボンもとても体に良い果物で、ナリンギンという苦味成分を含んでいます。
  • JA芸南の現状と問題点。1)収入が不安定:びわはデリケートな果物で、気候の影響を受けやすく、年により収穫量に差が出ます。2)労働力不足:びわもじゃぼんも完熟手前で一気に収穫・出荷する必要があり、特にびわは収穫期間が1か月足らずです。傾斜地なので作業機械が入らず、すべて手作業なため、夫婦二人では人手がたりません。3)後継者不足:JA芸南の農家の平均年齢は80歳(日本全体では平均年齢72歳)。後継者がいない原因は年収が40~100万円と低いこと。これでは、若い人が子育てしながら農業で生活を立てるのは困難です。
  • JA芸南の解決策。1)ボラバイトを募集:最低賃金以下で農作業のお手伝いをしにきてもらう。「おもろい農」で募集、広大掲示板もみじにも掲載されます。2)「おもろい農」:一般市民や大学生から構成されるボランティア組織。平成23年12月から援農ボランティアの受け入れを展開、年間300人ほどを受け入れてきました。20代の青年を就農させる活動も行い、ジャボンなどの加工品の開発にも協力しています。
  • 体験授業を終えての感想。「びわは、思わずつまみぐいしてしまったほどおいしかったですが、木がたくさんある傾斜地での作業は想像以上にたいへんで、ご高齢の方にはつらいものがあるのではと思います。私たちのような若い世代がボラバイトに積極的に参加する必要があるのでは、と思いました。」

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