広大地(知)の拠点:中山間地域・島しょ部対策公開セミナー「広島県におけるGAP(農業生産工程管理)の取組、その実践から学ぶ」を開催いたしました。

広大地(知)の拠点:中山間地域・島しょ部対策公開セミナーを開催いたしました。
 「広島県におけるGAP(農業生産工程管理)の取組、その実践から学ぶ」

セミナーの構成
 2018年3月16日(金)、広島大学の地(知)拠点整備事業、中山間地域・島しょ部対策領域の公開セミナーが開催されました。昨年の11月に開催いたしました、第1回のGAP勉強会が大変好評でしたので、今回は広島県内にて先進的にGAPに取り組んでおられる農事組合法人うづと・兼国幸秀氏、有限会社援農甲立ファーム・光永直義氏に報告をお願いいたしました。広島県内のGAPへの取り組み状況について、農林水産政策研究所・天野通子氏に整理していただきました。
 セミナーには、農事組合法人、農業経営者、広島県JA関係者、流通関係者、市町、広島県(行政及び普及指導所)、国農政機関、それに生物圏科学研究科の教員や学生・院生、あわせて35人が参加しました。

セミナーの報告内容
 地(知)の拠点整備事業を担当する山尾政博教授は、セミナー開催にあたり、農業生産の現場では、食の安全、労働安全、環境保全などを確保するために、GAP(農業生産工程管理)の導入・普及が進んでいることを報告しました。広島県内には先進的にGAPに取り組んできた経営体があり、先進的な事例から導入・定着体験を学び、広めていくことは可能です。

 兼国幸秀氏は、「条件不利地域で実現した米とアスパラのGAP-将来の販路拡大をめざしてー」、というテーマでご報告されました。農事組合法人うづとは、世羅町にある集落営農を行う法人です。組合員数57人、農地集積面積は28.5ha、水稲を中心にアスパラ、キャベツなどを栽培しています。水稲とアスパラを対象にJGAPを取得し、食品安全、環境保全、労働安全、組織のルールづくり、担い手の育成に努めています。JGAPの取組によって、農薬・肥料の資料と管理方法が厳しくなった、異物混入を防ぐ対策が充実できた、トレーサビリティが確保できるようになった、などの成果をあげています。

農事組合法人 うづと 兼国幸秀氏

 光永直義氏は、「雇用の安定確保から目指したグローバルGAP」、というテーマでご報告されました。安芸高田市にある有限会社援農甲立ファームの経営面積は37ha、職員数は19人です。水稲、畑、ビニールハウスを行っていますが、アスパラ、白ネギ、ミニトマトを対象に、2017年2月にグローバルGAPを取得しまし
た。グローバルGAPは点検項目が260近くありますが、援農甲立ファームは団体認証に参加し、親会社による指導を受けて負担を軽減しています。品質向上、ムダの削減、労働安全・衛生、経営力の強化がはかれたとのことです。特に、雇用環境の改善は大きなメリットです。ただ、事務作業が増加、職員教育の徹底、コストの発生などはデメリットになります。安全な労働環境を確保することが、将来に向けて持続的な経営につながるとのことです。

有限会社援農甲立ファーム 光永直義氏

 天野通子氏には、「広島県のGAP認証農場から学ぶべきもの」、と題して広島県内のGAP農場の状況を解説していただきました。GAP取得農場の特徴、GAPの機能と役割、段階的な生産工程管理のレベルアップ、GAP普及支援の枠組み、など多様な論点を提示いただきました。広島県には農事組合法人や集落営農集団が多数あり、GAPを導入する下地が整っています。GAPの取得によって得られた成果は農場によって違いますが、食品衛生管理体制の充実が図られています。ただ、当初期待された成果が得られているわけではありません。市場流通においてGAPが評価されるよう、社会全体での努力が求められています。生産工程管理を段階的にレベルアップしていくこと、GAPの普及に向けて必要な支援を充実させていく必要があります。

農林水産政策研究所 天野通子氏

セミナーの討論内容
 討論では、二つの事例報告と話題整理を踏まえて、GAPの導入・維持の目標をどこにおくか、GAPの導入・普及を促す要因と環境作り、GAP支援体制のありかた、について議論がありました。特に、農業者や従業員のGAP取組へのモチベーションを維持することは難しく、意識的な教育・訓練が必要です。ただ、農事組合法人など協業経営体に参加する農業者の中には、兼業先でISOを始めとする各種認証制度の経験をもつものが多く、GAPにそれほど苦も無く取り組んでいるとのことです。GAPの導入目標ですが、食の安全、労働安全、環境保全、持続的な経営、等をどこに置くかはそれぞれの経営判断によります。販売先の増加、販売単価の向上、ブランド力の強化、収量や品質の向上にただちに結びつくとは限りません。そのため、しっかりとした目標をもって取り組まなければなりません。

全体の討論の様子


 広島県では、広島県GAPのガイドラインを作成し、普及指導所、JAグループあげてGAPの普及・定着に取り組んでいます。流通・加工業、さらには消費サイドがそうした活動の成果を広く評価してもらえるように、啓発活動の充実も期待されています。

 第2回セミナーの話題提供、話題整理、討論を踏まえると、次のようなテーマを検討してはどうかと考えます。
1.GAPの普及・定着のために必要な措置、関係機関の役割分担
 2. 流通・加工企業が取り組むフードチェーン・アプローチ、生産者に求められる対応
 3.GAPの普及啓発のあり方、
 中山間地域・島しょ部対策領域を担当する生物生産学部では、引き続きGAPの普及・定着に関するセミナーや公開講座を企画・開催する予定です。

 

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